前著に引き続き、出版社&著者より献本御礼。

さすが「元百人隊長」。アントニオ・ネグリマイケル・ハートが言うところの〈帝国〉が在りし日のタブレットPCだとすると、本書はまさにiPad。本書の言うところの「帝国」は〈帝国〉と完全一致というわけではないけれど、本書の「帝国」がわかればもうわかったも同然だ。

本書「企業が「帝国化」する」は、「諸帝国」の中でも今や最大の力を持つ「帝国」の元「百人隊長」として前著「僕がアップルで学んだこと」で著した著者が、今度は一般名詞としての「帝国」とはなにかを論じた一冊。

著者はそれを、「私設帝国」と呼んでいる。

大ヒット商品の発売を機に大きく変貌を遂げた米アップル社を内側から見てきた著者が、独自の視点でアップル、グーグル、マクドナルド、エクソンモービルなどの巨大企業を分析。一人勝ちをする仕組みを創り上げながら、産業やビジネス、消費の在り方を根底から変え、私たちの生活に影響を与える「私設帝国」とも呼べる企業たち。これらの帝国が支配する新しい世界のすがたを明らかにし、企業が構築するさまざまな仕組みの中で、私たちはどのようにそれらに対応し、生きていくかを考える近未来の指南書

この私設帝国が、今や「公設帝国」つまり国家よりも各国市民に対して強い影響力をもち、そして国民を臣民化しているというのが本書の問題提起である。

同様の問題提起は、本書がはじめてではない。しかし悲しいかな、彼らのほとんどは学術的な--そして時にはそれを通り越して衒学的な--言葉を弄ぶ事はできても、「帝国軍」ないし「反帝国軍」での「軍歴」を欠いていて、言説の足が地についていない。本書はある意味ダースベーダーが書いた「銀河帝国論」である。面白くないわけがない。

しかしそれも、問題提起の部分までだ。本書の最終章のタイトルともなっている「ではどうすればいいのか?」という問いに対しては、「ジェダイになれ」という答えしか出していないのだから。これで救われるのはフォースを持っている人だけではないか。よしんば彼らがまとまって「帝国を倒した」としても、彼らが新たな帝国を築くというオチにしかならないのは「スター・ウォーズ」のとおりである。

やはりシステムの方そのものに問題があるのではないか。

私設帝国は強大ではあるが、「従属栄養生物」でもある。将来の帝国軍の人材となるべき人々を養育するわけでもなければ、引退後の人々を介護するわけでもない。帝国政府は各国に税金を払っているのだからただ乗りにあたらずと口をそろえて主張しているが、彼らがいかに節税に長けているかはダブルアイリッシュ ダッチ・サンドウィッチをぐぐるまでもなく本書も紹介している。

その行き着く先はどうなるか?彼ら自身が干上がってしまうのである。持続可能とはとても言えない。私設公設を問わず、帝国というものが興っては亡び、興っては亡んできたのはむしろ当然とも言える。まるで血を吸いすぎて動けなくなったノミのごとく…

もっと Think Different できないものかな…

ともあれ自らジェダイとなって帝国軍とわたりあうにも、あるいは「持続可能な帝国」の仕組みを設計するにも、現状が解らなければ話にならない。本書以上に、企業帝国のありようが明快に記された本を私は知らない。まずは一読を。

Dan the Barbarian