あるところで「戦争は嫌だけどミリタリーは好きだ」という一文を見た時、前から引っかかっていたこの設問を思い起こしたので、とりとめなく。

兵器は、美しい。

という主観的な主張が受け入れられないのであれば、兵器を美しく感じる人は実に多い。私もその中に入る。最近では自己啓発本のことを「キャリアポルノ」だと呼ぶのだそうだけど、"Weaporn"はそれよりもさらに多く、元来のポルノに勝るとも劣らない。実在架空を問わず、兵器を愛でるコンテンツの量は、動植物を愛でるコンテンツの量に勝るとも劣らない。

なんで?

少なくとも、兵器の全てが美しいわけではない

兵器が美しい必然性は全くない。「バールのようなもの」から即席爆発装置まで、「期待通り」に醜悪な兵器は少なくない。合目的であればあるほど醜いことこそ、兵器という凶器にはふさわしいはずだ。その意味で日本刀の美しさは救いでもある。それは兵器としては劣っているということなのだから。事実、刀が主戦兵器であった試しはなく、そうであった槍を愛でる人は刀を愛でる人より遥かに少ない。ちなみに中国語では、銃のことも槍と呼ぶ。

孫子の兵法のことを英語ではThe Art of Warとはいうけれど、この art はあくまで「技術」であって「美術」ではない。この art を尊ぶ人にとっては、兵器が美しいことそのものが戦術の美しさそのものを損なうものですらある。

にも関わらず、見蕩れるほど美しく、かつ実戦で有効だった兵器にもまた事欠かないのはどうしてだろう。

技術の粋だから?

小は拳銃から大は軍艦まで、それが兵器だと知らなくても、美しいが大げさならかっこいいと感じるものは少なくない。軍用機はそれが特に顕著で、SR-71なんて私が生まれる前に登場したのに、まるで未来から来たみたいだし、バルキリーは実在のXB-70も架空のVF-1も思わず見蕩れてしまう。

しかし技術の粋でありさえすれば美しいかというとそうでもなくて、世界初のステルス攻撃機F-117なんて、何度見ても不格好で不細工だ。ステルスという機能ゆえのあの形で、あの形を飛ばすためにさらに自動制御という技術の粋の粋を集めたものであることを知ってもなお、爆装したF-15Eよりかっこ良く見えない。F-22F-35はF-117ほど不格好ではないけれど、その前任者であるF-15F-16よりかっこよく見えない。F-14もかっこよかった。VF-1のモデルになるだけのことはある。でも生き残ったのは、それより不格好なF/A-18。軍用機においても、「美しいほど優れている」は必ずしも成り立たない。

2013年現在、私が一番美しいと感じるのはSu-27なのだけど、SR-71といい、少なくとも軍用機に関しては、兵器としての側面ではなく航空機としての側面により強く美しさを感じているのだろう。実際、戦闘というものは99%の移動と1%の攻撃からなるものだし、残りの99%の部分にみとれてしまうのは、「兵器?ダメ、絶対!」な人でも理解できるのではなかろうか。

後付けは不格好?

兵器として改良することで美しさが損なわれるものとしては、戦闘車両があるだろう。例として、ストライカー装甲車を挙げておく。

左の「標準仕様」と比べて、イラクやアフガンで用いられているスラット装甲付きのバージョンのなんと不格好なことか。まるで珍走車ではないか。しかしあなたが兵士だったとしたら、迷わず珍走車を選ぶはずだ。標準仕様ではやられてしまったからそうなったのだから。

しかし同じ「コンバット・プルーヴン」でも、後付けではなくあらかじめ仕様を設計に盛り込んだものはそんなにかっこわるくない。クーガー装甲車は決してハンサムとは言えないが、それでもハンヴィーよりはましに見える。

似たようなことはイージス艦にも言えて、スプルーアンス級を魔改造したタイコンデロガ級より、はじめからイージス艦として設計されたアーレイ・バーク級の方がずっとハンサム。

まとまらないけどむすび

そうやって見ていくと、どうも兵器の審美鑑定というのは、動物の審美鑑定と同じ脳内回路を使っているのではないかという仮説にたどり着く。大まかに美しいほど強く、しかし細かく見ると美しいからといって強いとは限らないところも。ハイエナはライオンほど人気がないけど、ニッチにおける強さは勝るとも劣らないし、チーターよりはずっと上だ。

最初はひたすら気色悪かったものが、知識を得るに従って快感になるところも、これで説明がつく。虫ってきしょいものの代表選手だけど、知れば知るほど、哺乳類ではありえないその多機能多芸ぶりにはまるし。虫二病やむなし。かといってかといっておいしくいただけるかとなると、うーん。はちのこもイナゴもカイコのサナギも食ったことあるけど、どうしても慣れなかったなあ…それを思うとミリオタがエロオタほど嫌われていないのはやや不可思議でもある。

20世紀の間は世代が進むほどかっこよくなっていた兵器が、21世紀に入ってからそうでもなくなってきたのは、(それでも)世界が平和になってきたことの裏返しかも知れない。無人ドローンが有人戦闘機よりかっこいいという人は、筋金入りのミリオタにもいないだろう。多分それはいいことなのだ。

かといって、戦車道は人類はとにかく私にはちょっと早すぎたなあ。だって実際のところ、徹甲弾食らったら中身ぐしゃぐしゃだもん。作品では道まで落とし込む工夫をしまくりんぐでそこは評価するけど、それを受け入れるにはあまりに多くの「道」なき戦車映像見ちゃったからなあ…マミられるどころじゃないのよ。

Dan the Non-Lethal Blogger