
宇宙戦艦ヤマト2199
(全七巻予定;現在六巻まで)
「元祖」から40年近く経っているだけあって、それにも増して作品世界が「制作者たち」に濫用されすぎたこともあって、私にとって「ヤマト」というのは一に宅急便、二にソードマスター、三、四がなくて五に宇宙戦艦という感じだったのだけど…
なにこれ面白い!これは「本家」と言わざるを得ません。
不覚にもコミック第一巻を献本いただいたときには、「お前はトマトか」という気持ちでした。この場を借りて献本御礼。でもやはりアニメは動いてなんぼなのですねえ。
とはいっても、今回は作品評ではありません。それは完結後に改めてきちんとすべきだと思うし、そうするだけの価値があって余りある作品なので、中途でそうするのは、それこそコスモクリーナー改めコスモリバースを地球に直接宅急便しちゃうぐらいの無粋だと考えています。ただ前置きとして、1974年に初放映された「原作」が、アニメというものにとって、パーソナルコンピューティングにとってのMacとiPhoneを足して自乗したぐらいエポックメイキングな作品だったというのは、紹介しておいてもよいでしょう。
宇宙戦艦ヤマト - Wikipedia子供のものだったアニメを高校生から大学生まで見られるものとし、その後の『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』『新世紀エヴァンゲリオン』などのアニメブームの先駆けであり、映画・レコード・小説・漫画・アニメ雑誌・ラジオドラマ・キャラクター商品など、アニメビジネスにおいて多くの足跡を残した。後にビデオ・CD・LD・DVD・テレビゲームなどもリリースされている。
ほんと、今の我々が「リアル」に倦んだらいつでも二次元に潜航出来るようになったのも、同作が「アニメはガキのもの」という偏見を波動砲で吹き飛ばしてくれたおかげなのですよね。
ですらー、じゃなくてですが、星雲賞も受賞した同作をSFとして見ると…やっぱ突っ込みどころが多すぎて体中が痒くなってくるのもまた否めないのです。そしてそのことは、ヤマトとガミラス艦隊をデザインした当の中の人たちがあっさりはっきりそう言っています。
スターシップライブラリー (スタジオぬえメカニックデザインブック Part.2 宇宙戦艦編収録)「ヤマト」がどういう作品であったのか、自分なりの定義づけもせずに、宇宙戦艦としての構成がどういうものかというのは、例え相手が「ヤマト」であっても失礼というものだ。
結論を先に言ってしまうと、「ヤマト」は本コラムが構成を云々するような作品ではない!
我らがスタジオぬえの変人、高千穂遙が言うとおり、「ヤマト」は僕[宮武一貴]にとってもSFではないのである。
S-Fマガジンに1978年から3年に渡って連載された同コラムは、「最低限文化的な宇宙船、特に宇宙戦艦はかくあるべきか」を論じたもので、SFの世界的第一級資料なのですが、現在入手困難。この「スターシップライブラリー」だけでも電子化していただけないでしょうか>関係者各位
とにもかくにも、中の人々自身が
スタッフは"これはSFじゃない。我々は第二次世界大戦記録映画のパロディをやっているんだ"というサインとして、知っていてわざわざそう描いたのである!
とおっしゃってる以上、「宇宙で煙がたなびいている、プギャー」のごときはスルーしてたしなむのが、ヤマト宇宙におけるマナーだと私は思っています。どれほど同世界の宇宙軍艦たちがアンリアルでも、宮川親子の音楽と赤茶けてた地球と人類滅亡まであと何日カウントを目の当たりにしては、視聴者がエネルギー充填120%となるは必然。もっとも売れすぎた故に、「愛なら仕方がない」を繰り返しすぎて愛想をつかされたのもまた確かで、本作の真田が「汚れちまった悲しみに」とのたまうのも、本作以前の関係者に向けられた、本作スタッフのメッセージなのではないかと一視聴者として邪推を禁じ得ません。
「俺の食い扶持のため!」という理由で恒星間戦争を書き出したら、登場人物たちがそれに気が付いて必死に作者を止める作品とか…< @nojiri_h: ヤマト世代だけど、もう汚れてしまった。恒星間戦争する合理的な理由さえあればなあ・・
— Dan Kogai (@dankogai) February 20, 2012
なのになんで本作にドリルミサイルをツッコミたくなったかというと、「本家」たる「本作」は、結構ガチに「元祖」の「零下一千度」を直しにかかっているから。作画崩壊を二級ガミラス市民へと昇華させたことなんて、ガーレ・ガミロンと舌をまきましたよ。
ここまでが、やっと前置き。発進するまで時間がかかるのがヤマトです。
三段空母にアングルド・デッキって
これはかっこ悪すぎる。「第二次世界大戦記録映画のパロディ」からもこれで逸脱しちゃうし、必然性がまるでないし。これは問答無用で改悪。元祖がヤマト以前の地球防衛軍の軍艦に見えるほど凌駕した本家なだけに、本作で一番残念だったのがこれ。ガミラスに下品な艦艇は不要だ!
スラスターこそ、零下一千度
本作の「零下一千度直し」で、一番目立つのがこれかも知れません。操船の際に、きちんとサイドスラスターを噴射してるんですよガミラス艦もヤマトも。それなりに手もかかるのでいつも見せてくれるわけではないのですが、これぞというときにはちゃんと噴射して回した上で逆噴射してる。
一見「リアル!」って思っちゃうのですが、よく考えてください。本作の世界では重力制御は「公理」ですし、実際に噴射駆動も艦内重力制御してないと成り立たないのです。例えばヤマトはたった数秒で「取りかじ180度」しちゃいますが、この時船首には10G以上の遠心力がかかることは、ちょっと計算してみればわかります。自動航法装置が死んじゃう!
つまり、重力制御は常時オンにしとかないと立体機動が破綻してしまうのですね。
それでもヤマトは、過渡期の船ということで旧来の噴射駆動と併用でもまあ仕方ないとは思うのですよ。でもゲシュ=タム・ドライブはおろかスターゲートまでずっと運用していたはずのガミラスまで噴射駆動を併用しているというのはザ・ベルクしかねるのです。
もっともこれを突き詰めると、宇宙戦闘機もお役御免になっちゃうのではありますが。おそらく重力制御も、それに無尽蔵のエネルギーを供給するであろう波動エンジンも搭載できなさそうな宇宙戦闘機より、宇宙戦艦の方がずっと機敏に動けるわけですから。星界シリーズで最小の戦闘機動兵器が突撃艦だというのはしごく納得がいくところです(しかも平面宇宙では小質量ほど高速という設定があって、「小さいに超したことはないが、小さすぎると駄目」という原則がきちんと成立している)。
もっともさらに小型化して、モビルスーツよりさらに二まわりは小さいマシンキャリバーにも搭載できるほど小型化できたとなればその限りではありませんが。小さい方が有利というのは宇宙戦闘でも変わらないはずですし。その場合、ましてやスラスターは不要で、実際人類銀河同盟もヒディアーズもスラスターは見当たりません。人類銀河同盟の艦艇の船尾にノズルっぽいものがあるのがかえって残念に思えます。
ヤマト型に同型艦が存在しない理由
もしかして、ヤマト最大の謎というか「ないわー」は、ヤマトが単艦であること。ノーバックアップ。いくら人類に余裕がないっていっても、イズモ計画捨ててまでヤマト計画一本槍っていったい。エレンゲリオンに全てを託したのですら訓練兵団とトロスト区の駐屯兵団どまりで、近衛兵団はまるまる温存しているというのに。
「んなこと言われても波動コア一つしかないし」というあなた。話をよーく見てください。太陽系には少なくとももう二つあります。ユリーシャとサーシャが乗っていた船に。つまり、ムサシとシナノまでは建艦できたはずなんです。
…と考えていて、恐るべき答えにたどり着きました。
大小マゼランおよび天の川銀河の真の支配者が誰なのか。
ガミラス、ではありません。
イスカンダルなのです。
波動コアには、以下の文言が必ず添付されているはずです。
波動コア利用許諾契約
本契約書に明示的に規定されている場合を除き、お客様は、本コアのコピーを 1 部に限り本船にインストールして使用、アクセス、表示、および実行することができます。
本コアは 1 つの統合された製品として本船と共に許諾されており、本船と共にのみ使用することができます。本コアが本船に付属していない場合、お客様は本コアを使用することはできません。
…
イスカンダル船の波動コアを勝手に他の船で使うのは、契約違反なのです。無限に広がる大宇宙において、契約がいかに神聖不可侵なものであるかは、たとえそれが因果律に反する反逆であろうとインキュベーターが履行したことを鑑みれば納得が行きます。契約違反を検知すると次元断層に問答無用でゲシュ=タム・ジャンプするなどの仕組みも当然内蔵しているでしょう。
そして波動コアというIPコアは、ガミラス帝国もライセンスしているのだと自然に推察できます。あの傲岸なアベルト・デスラー総統の腰がイスカンダル人に対してあれほど低いのもこれで納得が行くというものです。ガトランティスがどうしているかまでは現時点で不明ですが。
ガミラス帝国が銀河のインテルだとしたら、イスカンダルこそ銀河のマイクロソフト。
イスカンダル、あなどりがたし!
しかし、この問題にもどうも正面から答えるみたいですね本作は。
本家、あなどりがたし!
Dan the Earthling
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