去る6月28日に、拙著「小飼弾「仕組み」進化論」のKindle版が発行されました。

にも関わらず、本日まで本blogでの紹介が遅れたのは、あるイベントの完了を待っていたから。

それが、以下の掲載完了。

インタビューそのものはわずか一日ですが、都合七回に分割せねば掲載できないほどのテーマを、初対面でいきなりぶつけてきた松井博さんの遠慮なき誠意をぜひともご覧いただきたかったのです。

それは、国民国家と企業帝国という、現時点において我々が構築運営している最大の「仕組み」と、それが産み出す問題。同インタビューでも、本書は「種本」の一つとして用いられています。

本書で私が伝えたかった事は、これ。

仕組みを語るとDNAに行き着く! 書評「小飼弾の「仕組み」進化論」 | No Second Life
私が感じたのは、これらの本の「仕組み」の「耐えられない軽さ」です。はっきり申し上げて、私にはこれらの本が呼ぶところの「仕組み」がなまぬるいものに感じてならなかったのです

本書が上梓されたのは、2009年3月。リーマンショックの後。東日本大震災の前。

どちらも、「仕組み」というものの「耐えられない軽さ」を津波のごとく流すようなイベントでした。

それから四年。震災から二年。

私が最も驚いているのは、有形の仕組みの壊れ易さと、無形の仕組みの壊れ難さ。

前者は人体であり、堤防であり、原発。

そして後者は精神であり、企業であり、政府。

本書もまた、「仕組みについて考える仕組み」であるがゆえに後者に属します。本書で取り上げた事例を差し替えたい気持ちがないとは言えませんが、それ以上に本書で行った論考が現在もなお有効であることに、著者というより一読者として唖然としています。

対談連載と本記事の間にも、仕組みについて改めて考えさせられる訃報が続きました。金子勇さん、ボーイング777の乗員乗客としてはじめての死者となった二名の高校生、そして東京電力福島第一原子力発電所の吉田昌郎元所長…彼らはいずれも仕組みというものの犠牲者であると同時に、金子氏は仕組みの設計者であり、吉田氏は仕組みの運用者でありました。

彼らのニュースを見た後、改めて本記事を書きながら自分自身の心理という仕組みを顧みて愕然としました。本書の著者であるはずの私でさえ、仕組み自体の物語より、仕組みの不備と戦う人間の物語に心動かされてしまうことに。

冷静かつ冷徹に考えれば、彼らの物語に耳目を注ぐ以上に我々がすべきなのは、彼らの対峙した仕組みに対する再考であるはずです。なぜSFOほどの大空港でもグライドスロープは必須になっていないのか。なぜ10kmしか離れていない福島第二は福島第一にはならなかったのか…

しかし、どうも我々には、仕組みシステムよりも、人格キャラクターに強く惹かれてしまうという仕組みが組み込まれているようなのです。「だからたかが知事が原発再稼働を阻むのはおかしい」と主張するのは、法理という仕組みを重んじる以上に、心理という仕組みを軽んじているように思えます。前者は我々の努力で改善できても、後者はそうは行かないのですから。

そういった我々の内なる仕組みまで含めて、本書が仕組みというものを考える一助となることとなれば、それに勝るよろこびはありません。

Dan the Author

まえがき - 仕組みの逆襲
Part0 仕組み作りが仕事になる
仕組み化が進んだ社会
  • 高度に進化した仕組みがあなたのクビを絞める!
仕組みづくりを仕事にするための「新20%ルール」
  • 生き残るために必要なのは“本当の”20%ルール
Part1 仕組みの仕組み
-- 仕組みを作る前に知っておきたいこと
仕組みはどんなふうにできているのか
  • あらゆる仕組みは、「テコ」と「奴隷」でできている
  • 見えないテコ=公式が仕事を効率化する
身近にある「テコ」と「奴隷」を使った仕組み
  • ディズニーランドのサービスの秘密は、マニュアル=テコにある
  • テコの力をコントロールできるFXの仕組み
Part2 仕組みを作り直す
-- 目の前の仕事を20%の力でこなす仕組み
プログラマーに学ぶ「仕組み作り」の基本
プログラマーの三大美徳「怠慢」「短気」「傲慢」
  • 同じ作業の重複を嫌がる「怠慢」
  • 先回りして仕組みを作る「短気」
  • プロ意識から仕組みのメンテナンスを容易にする「傲慢」
日常業務を仕組み化してみよう
  • 仕事を定量化する
  • 事例1 無駄な繰り返しを減らす仕組みを考える
  • 事例2 すべての記録を保存して再利用
Part3 仕組みを使う
-- 仕組みのコストとテストを考える
仕組みは使ってなんぼ
  • 何回使えば元がとれるか
  • 残りの80%で遊ばなければならない理由
「使わないでなんぼ」な仕組み
Part4 仕組みを合わせる
-- チームで仕組み合うために
仕組みを合わせる基本ルール
  • 仕組みの中のボトルネックを見つける
  • 生き残るためには安全性の高い並列的な仕組みに
上手に仕組みを合わせる
  • 次の工程を見せて自分の役割を理解させる
  • 仕組みの位相・タイミングを合わせる
  • 泥縄的なマニュアル=最新のマニュアル
安全に“仕組み合う”ための仕組み
  • 非常時に力を発揮するために「緊張しなくてよい」状況を示す
  • 保守担当者には、金銭的なモチベーションも必要
  • 意識させずに安全性を高める「自動化」と「自働化」
  • リーダーの笑顔は義務である
  • 問題は自分よりふたつ上のレイヤーで考える
  • コミュニケーションコストを減らす「モックアップ」
Part5 仕組みと生物
-- 「新しい仕組み」を作るヒント
生き残りの名人「生物」という仕組みに学ぶ
  • どうやって生き残るかを考えるときが来た
  • 生き残るコツは、「生物」にあり
  • 突然変異を誘発するブレインストーミング
生き残るための仕組みを作る
  • レッド・オーシャンの隙間のブルー・オーシャンを狙え
  • 隙間を見つけるには、「遠くを見過ぎない」こと
  • 仕掛品をたくさん作り、最後の1ピースを待つ
Part6 仕組みの未来
「リソース重視」の仕組み作りが格差をなくす
  • 持てる者と持たざる者のギャップ
新しい仕組み作りへリソースを投じよう
  • あなたは本当に働いているのか
  • 怠け者のアリが社会を豊かにする
  • “ending concern”やオープンソース
あとがき 本書ができあがるまでの仕組み