
天元突破グレンラガン
COMPLETE Blu-ray BOX
見た。見てしまった。
これが、天元突破。
これが、グレンラガン。
本作「天元突破グレンラガン」は、見るものの心を穿たずにはいられない物語。そういう予感があったので、これまで「ハイペリオン/没落/エンディミオン/覚醒」をすぐに手をつけないのと同様の気持ちで未見だった。
しかし、6月末にBlu-Ray Boxが登場し、コミック版が完結するとあっては、さすがにもう待てない。その頃には患っていた歯も治っているはずだし、快気祝いに観よう。ドリルが主題の作品を歯科治療中にみるというのはさすがに洒落にならないし…結局歯の治療完了は七月中旬までずれ込んだが、それを待って大正解だった。
歯を食いしばれずに観れる作品ではとてもないので。
我ながらいきなりBlu-Ray Boxとはドッカナイ村民なみの無謀だと思ったのだが、なにこのいきなりギガドリルブレイクが決まっちゃった感。いや違う。ラガンインパクトされたんだ。アニキにちょっと申し訳ないけど、これで答えはそういつもここにある…
本作に関して、Blu-Ray Box前に私が知っていたのは、以下の程度。それ以上の知識は、つとめて入れないようにしてきた。
- OPが空色デイズ
- プリキュアの裏番組
- 史上最大のロボット登場作品
初放映から6年も待った最大の理由が、最後の項。これはもしや虚無フラグではないのか?もしそうだとしたら石川賢ファンの私の脳にはドグラが湧くに違いない…それでも、不安以上に期待は上回った。不安がアークグレンラガンだとすると、期待は超銀河グレンラガンぐらいには。そして
買った、来た、見た。
超銀河どころか、本当に天元突破してやがる。
いやあ、歯を治しておいてよかった。こうかましてきましたよ本作は。
俺たちを、誰だと思っていやがる!
あの「虚無戦記」を真っ正面から受け止めて、きっちりケリをつけるなんて!
一体誰なんだ、この中島かずきって人は!?
中島かずき - Wikipedia他に編集を担当していた作品に『ゲッターロボサーガ』などがあり、本人曰く「今のところ、日本で一番石川先生(石川賢)の単行本を作った編集者」とのこと。石川と同作品の大ファンであることから、自らの事を「ゲッター者」と自負した。
あ、コアドリルがはまった。
シモンだ、この人。
石川賢という、カミナにとっての。
しかしなぜ石川賢がついに勝つ事が出来なかった虚無に、彼は勝つ事が出来たのか。
それが、螺旋力。本作の世界を支配する空想上の力であると同時に、創作にあたっては実在する力であり、おそらく本作後は物理学にとっての相対論と同様の地位を占めるであろう力。
石川賢が、これを知っていれば。
改めて虚無戦記に目を凝らして確認したのだけど、悲しいかな、迸る螺旋力をもちながら彼はそれが何たるかに気づいていなかった。同作にも螺旋が登場しないわけではないのだけれど、しかしあくまでそれらは自然発生的な渦どまりで、その渦でさえ絵的に自然な場合にもあまり採用していない。猿羅神の暗黒劫洞でさえ、放射している。爆裂している。あまりにまっすぐすぎたんだ。
その中島自身、螺旋を発見したのは、石川の没後、本作の脚本を受けてからのことだったのだそうだ。もちろんガイナックスの「ドリルで26本お願いします」という無茶ふりをされて、途方に暮れた末に見出したのが、螺旋。
その意味で、中島はガイナックスというグレンにとってのラガンでもある。
温度を反映させないように紹介すると、本作は合体ロボットアニメ。グレンとラガンが合体して、グレンラガン。マンガのごとくシンプル。しかしその合体方法がでったらめ。
ラガンの下半身ドリルを、強引にグレンに押し込む。
で、それを発想した人が、「お前のドリルは、天を衝くドリルだ!」って。なにこの陵辱合体…
プリキュアと間違えてこれを見てしまった親御さんの心境は察するに余りあります。
まさか、これが物語最大の伏線だとは。
第一話を、当時すでに存在していたDVRで録画して、OPとED飛ばして見たには、タイムボカン的ロボコメディに映ったはずです。頭から直接手足が生えたラガンはどうみてもトイ・ストーリーのポテトヘッドだし、ヨーコの髪留めはドクロベェだし。これでザブングルを復刻するのだと…
でも私は第一話はOP飛ばさず見るんですよ。旧きよきチャンバラロボアニメに「もしも世界が意味を持つのなら」。いつの頃からでしょう。メカメカしいアニメ主題歌でも主役メカの名前を連呼せず、さりげなく登場人物の心境を歌い上げるようになったのは…
ん?「敵艦隊、無量大数」!におうぞ。におうぞ。MIROKUのにおいが…
第八話で確定するように見えるわけです。これは友情努力勝利な少年ジャンプ的ガチアニメだと。
で、十五話でグレン団は首都テッペリンを陥落させ、人類を地下から解放するのですが、話はここで終わりません。もし本作が深夜アニメだったらここまでで一旦DVD/BDの売れ行きを見極めてからはじめて「超・天元突破グレンラガン」とかいう名でシーズン2制作が決定したりするのですが、本作ははじめから27話構成(16話が総集片で事実上の26話)。グレン的にはさておき、ラガン的には本当のお話はここから。なぜここまでのラスボスであるロージェノムは千年もの長きにわたり人類を地下に閉じ込められていたのか。なぜグレンラガンは合体ではなくラガンがグレンを取り込む形になっているのか。そしてニアと人類の正体…
そして人類の解放のために戦ったグレン団は戦います。今度は「宇宙そのもの」と、ニアと人類の存亡をかけて。ね?いつ虚無ってもおかしくないでしょ?こんなの一体全体どうまとめるの?
俺たちは、一分前の俺たちより進化する
一回転すればほんの少しだけ前に進む
それが螺旋なんだよ!
これ、創作という受け手の心を穿つ作務にとって、 E=mc2 に匹敵する発見なのではないか。
大団円というのは、ほとんど全ての場合においてよく見ると「ふりだしに戻った」だけに過ぎなかったりする。全ての魔女を生まれる前に消し去っても、魔法は残ったように。そしてアンチスパイラルが去っても、スパイラルネメシスのリスクは残ったように。
だけど、そこからさらに目を凝らして見れば、やはり何かが違う。その「違い」は常に「進歩」だとはとても言い切れないのだけど、それでも元の木阿弥では決してない。
一回転だけではそれが螺旋なのか、残念ながらほとんどの螺旋族にはわからない。本作は二回転する必要が絶対にあったのだ。本作自身が螺旋であることを示すために。
そして葛藤は往々にして二重螺旋になる。それが本作の世界観にしてグレン団のしくみ。ガチでぶつかり合うことでしか得られない友情が、そこにあるというのだろうか。
そしてこれは、本作の制作現場のありようでもあるようだ。脚本と監督。映像と音楽。そして過去作と本作…
その一番の見所が石川作品vs中島脚本。リスペクトする以上に、勝負を挑んでいる。「仏像艦隊」の立ち位置だけでも証拠としても充分なのだけど、ここは「戦いはまだ続く」の扱いを上げておきたい。本作ではこの台詞は二度登場するのだけど、石川作品のそれが魂の咆哮なら、本作のそれは魂の嘆息。「間に合わせるのが大人ってものよ」。リーロンの台詞が重い…
掘りクズ
本作が、燃えアニメの筆頭にして、その座を簡単には譲ってくれそうもないことは疑いない。
そして石川作品同様、「細けえことはいいんだよ!」と絶叫しつつ、その裏で恐ろしく精緻で堅牢な構成がなされていることも見落としようがない。
とはいえ、全ての作品がそうであるように、本作も完璧な作品では実はない。以下、気になったところ。
- 第四話。ああ第四話。第四話
- でもそれより実は第九話。グレン団旗、なんで半旗じゃないの?まあ千年も地下に閉じ込められて、文字すら忘れられている状況でそういう慣習がなくなったという設定はありえなくもないけど、冠婚葬祭に関しては明らかに21世紀の日本のそれを、水杯に至るまで踏襲しているのにこれは気になっちゃう。
- TV版四天王「映画版がやられたようだな」小説版「フフフ…奴らは四天王の中でも最弱」コッミク版「合体した途端にギガドリルブレイクを食らうとは四天王の面汚しよ…」
- BD BOXの全員集合ジャケットに、アンチスパイラルの御姿がない件。あの醜き姿こそ、彼らの決意の証。本作の力に溺れるおろかなものたちよ、貴様らにそれだけの読解力があるか?否否否否否否否!断じて否!
- まじめな話、「ならば、この宇宙、必ず守れよ」と螺旋族に遺言した彼(ら?)の不在は、ニアがそこにいないのと同じぐらい気になる…
Childhood's End
ああ、ドリ貞でいつづけてよかった。
「合体」元の作品を知っていれば知っているほど愉しめる作品なのだから。それは本作以前のみならず、本作以後の作品をも含まれる。特に「まどマギ」は大きい。ニアの行方に納得が行かない人も、今度は納得したんじゃないか?
ああ、脱ドリ貞してよかった。
観ずに死ねる作品ではないのだから。
作家ともなればなおのこと。宇宙をぶん投げる規模の作品をものにしたい者であれば、螺旋力の獲得と制御は必須であろうから。しかし本作が出発点になってしまうとは何と目の毒で気の毒な。これもまた一種のスパイラルネメシスか…
そして未見の人が心から羨ましい。
この心に穿たれた穴は、二度と元には戻らないのだから。
Dan the Drilled
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