中身もないのにAmazon Associatesに加入するのもなんなので、書評など書いてみる事にする。

「一番効率的な為替市場ですら、裁定機会が5%も存在する」というのはすごい発見だ。

要するに、円でドルを買い、そのドルでユーロを買い、そしてそのユーロで円を買うという取引を行なうと、20回に1回は円が増えて戻ってくるわけだ。

筆者はこれらの一連の研究を、「経済物理学」(econophysics)と評しているが、筆者らの研究アプローチ -- 実際の取引を1 tick単位までつぶさに観察する -- と、その研究結果 -- 相場がカオスであり、その結果裁定機会が発生する -- を見ると、むしろ「量子経済学」(quantumeconomics)と呼んでもよいのではと感じた。実際上記の裁定機会は、量子物理学のトンネル効果を彷彿とさせる。

「経済」抜きの物理学者であった筆者をして経済に目を向かせたエピソードとして紹介している、あのワイマール時代のマルクを上回る第二次世界大戦直後のハンガリーペンゴのハイパーインフレもすごい。結局このハイパーインフレは新通貨フォリントの導入で収まるのだが、その時の交換レート、1フォリント == 4*10e29 ペンゴ。1フォリントは金貨だったそうだが、1ペンゴではその中の金原子一つ買えないのだ。

量子力学が、20世紀の物理学の双璧のもう一つ、相対論より(21世紀初頭の現在においては)はるかに広く豊かな応用を得ているのと同様、「経済物理学」こと量子経済学もまた、「古典」経済学より遥かに応用が効くようにも思える。筆者は研究成果からいくつかの提言を行なっているが、そのうちの一つ、「消費税より相続制度を見直せ」という言葉にこの国の為政者は瞠目すべきである。

ひとつだけ著者に注文。筆者の高安先生の公式ホームページ、バックグラウンドの色と文字の色がちぐはぐで読みにくいことこの上ない。経済学における文字通り「量子的飛躍」を世にもっと知らしめるためにも、もっとWebページの読みやすさを考えてほしい。